幻が視る固定未来
決心した。もう少し頑張ってみよう。いつ来るか分からない有希乃だけど、戻ってくるかすら分からない有希乃だけど、信頼しよう。有希乃の言葉を。

「ありがとう芳原、本当にありがとう。オレ、もう少し頑張ってみる」
「うん。大丈夫。灼蜘くんなら大丈夫だよ」

しっかりとした決意を持ち、オレは芳原に力強く頷いた。
気がつけば結構話し込んでしまったらしい。学生服のポケットで何かが振動している。
どうやらお呼び出しの連絡が来てしまったらしい。なんとなく出れば冷静な声で助歌が今のどこにいるか聞いてくるのだろう。

ちなみに学校への携帯の持ち込みはもちろんのこと禁止されている。だけど今は屋上で教師に見られる訳もないし、それに芳原なら大丈夫だろう。

「ちょっと悪い」

そういってオレは当たり前のように携帯を取り出し、少し離れてから電話に出る。
もちろんのこと相手は助歌。会話は思っていた通りなので省略。ようは早く戻ってこいということ。
そうして携帯をしまってまた芳原のもとに戻る。

「悪い、早く帰ってこいって言われたから帰るわ」
「うん、だったらしょうがないね」

芳原は動くつもりはないようだ。つまりここに残るらしい。

「芳原」

オレは芳原に右手を差し出す。
意味を理解した芳原はゆっくりと右手を出してオレの右手を握った。

握手。
感謝の握手。
色んなことに世話となった礼。

ならこれだけじゃ足りないだろうな。
そう思ったオレは力を込めて芳原を引き寄せる。

「わっ」

驚きながらも芳原はオレの両手に包みこむ。
二度目の抱擁だけど、自分からは初めて。けど変わらず甘い香りは忘れられない匂い。

「本当にありがとう。この礼はオレに出来る限りでなんでもしたい。だからいつでもいいから埋め合わせする」

そう耳元で囁きオレは芳原を離し、そのまま扉へと向かう。
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