幻が視る固定未来
芳原の顔は見なかった。いや見れなかった。ちょっと恥ずかしいかな? あぁ恥ずかしいかもな。
そんなことを考えながらドアノブに手をかけた。
――その時だった。

「私も! 私のことも名前で呼んで」

叫び声のような声。
けど気持ちが籠った声にオレはほほ笑みながら振り向いて答えた。

「ああ、いいぜ」

芳原は赤面しながらオレの顔を見て脱力したように座り込んだ。
名前を呼ぶくらい、芳原なら喜んでしてやる。
そうしてオレはドアを開き、屋上を後に……まだしない。最後に一言。

「じゃあまた明日、教室で“奈々”」
「うん」

嬉しそうなその笑顔をオレは忘れない。
そうしてオレは芳原のいる――いや奈々のいる屋上から一気に駆け出し自分の家に帰った。
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