幻が視る固定未来
「と、友達だから」
「それなら大丈夫、相手は妻となる人、友達以上に特別な存在となるでしょう」

唾を飲み込む音が嫌に大きく聞こえる。
意識している訳でもないのに呼吸している音が聞こえる。
知りたくもないのに心臓音が高なっているのを感じる。
婚約者という存在の前に対抗できる手段は……今のオレには持ち合わせてない。

「さて、時間です。この話はまた今度……いえ“明日”しましょう」
「……はい」

時間に救われた。
母上とのこの時間は制限時間がある。それも長い時間ではない。
本当に今日はその時間に救われた。
母上の余裕のある言葉が頭に残る。この話はまだ続くということを。それはまるで悪夢、本当に夢であってほしいと願う現実。

「おやすみなさい、灼蜘」
「はい、母上」

力なく返答して、オレは母上の部屋を出た。
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