幻が視る固定未来
惨め以前に情けない。二週間前、奈々に言った決意はこれほどまで薄いものだったのか。
違う。昨日までは違うんだ。もっと厳密にいうならさっき、母上と話すまで決意は固いものだった。

“婚約者”という存在がオレの決意をぶち壊した。

もし、これはもしの話だが、このまま何も変えられず婚約者が来たとしても、有希乃の代わりとなってきた婚約者に抱く感情は愛ではない。それは憎悪に近いもの。
そんな状態で婚約者などいても意味はない。
八方塞がりの未来。
どうしょうもなく不幸が固定された未来。

「……」

また、オレはこの部屋で……溺れている。
どれだけ足掻いても深みにハマる奈落の海。
それをオレは今見ているし感じている。しかも溺れてるんだから苦しい。本当に、息も出来ないくらい苦しい。

助けてくれ。この苦しみから、オレを救い出してくれ。頼むから……頼む、

「有希乃」

ベッドに倒れ込んだ。まるで息が出来なくなってしまったかのように。
それは酸欠と同じ。生きていくのに必要な酸素がなくなり苦しむのと数分変わらない。有希乃という存在を失いかけているオレにとっては……。
そしてそのまま、オレは有希乃のベッドで気を失った。逃げるようにただ、今の現実があまりにも苦し過ぎるから。
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