幻が視る固定未来
母上はもう面を喰らって驚いている。けど、オレの言葉の返答は全く別の方向から返ってくる。



「――なら、私も忘れない」



「!」

反射的なんてものではない。
声という音ではない。声の気配でオレは背後の扉を見ていた。
その声に聞き間違う訳がない。いくら二週間近く聞かなかった声でもすぐに分かる。

「有希乃!」

言葉に反応するかのように扉が開かれる。
……しかし、そこにいたのは予想外の助歌だった。

「な、なんでだ? 今のはお前か」
「そんな訳ない」

そうやって横からスッと出てきた女にオレは笑った。
そうやって、そうやって有希乃は最高のタイミングで現れる。本当に、本当によかった。
さっき首を縦に振っていたら全てが終わっていた。

「来るの、遅すぎだぜ?」
「それについては悪いと思う。けどこっちも色々と大変だった」

オレも有希乃も一歩づつ歩み寄り、目の前にはお互いがいる。そんな距離ですることは一つしかない。

「本当に会いたかったんだぜ」
「私も、同じ」

思いっきり、今度こそ諦めないと抱きしめた。思い出した有希乃の匂い。この落ち着く匂いをどうしてオレは忘れられたんだろう。
助歌も母上も関係ない。そんな視線なんて関係ないんだ。オレは有希乃が好きだ。だから再会を喜んで抱きしめるんだ。
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