幻が視る固定未来
父が認めた以上、母上もその男側に付く……それが普通。だというのに母上はずっとその男ではなく、父のために目立たないようにずっと働いていた。
この時、父の側についていたのは母上と隊長である桃巴さんだけだったらしい。けど桃巴さんは父の命令でその男の元で働いていた。だから父は隊長くらいしか信用を得てないと思ったのだろう。
しかしいくら母上が目立たないように働くと言ってもすぐにばれる。最初はその男に探りを入れられているのではと疑われたが、それでも母上のことを信用した。
父は母上のことを、ずっと文句も言わずに雑用をこなしていたことを知っていたから。

父は見ていないようで部下全員のことを把握していた。ただそれを誰にも悟られなかっただけ。
本物の玄武である父には母上しか部下はいなかった。母上は真剣に全ての誤解を解くべきだと主張した。やはり全ての噂は噂でしかなく、その男の策略だと確信したから。

でも父は動こうとはしなかった。それにただ一つだけ肯定した部分もあるから。
母上はそれも嘘だと、その場に合わせた言葉だと思ったが、本当に父は危険な実験をしていた。それを知っても母上は父に対する信用を失わなかった。その実験の内容こそ知らなかったが。

そこまで信用できる理由は、信念というよりも憧れや尊敬に値する。
だから母上は常に父にだけ尽くした。それが正しいことだと確信して。そして父の誤解を解こうともしていた。

裏切りもの呼ばわりされたり、父の回し者だの、買収されてる、弱みを握られてる。色々なことを言われたが、それでも母上は挫けなかった。
そんな母のことを知った男は気に入らなかった。だから母を力ずくで奪う手段に出たそうだ。この時には二人の仲にある感情に恋や愛が芽生えていたことを知らなかった。
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