幻が視る固定未来
あぁ本当に木下有希乃は機械のようだ。もっと言うならばパソコンだろうな。
空っぽのハードディスクで何をするにも一つ一つの命令だが、それでも命令という記憶をさせれば間違うことなく作動する。
容量はどれくらいかは未知だが恐らく高いだろうな。
助歌はハイスペックなパソコンだが機械にはない“感情”という人らしさがある。パソコン木下にはその感情が全くない。

あぁもし感情という外付けハードディスク……いや贅沢は言わない、少しでもいいから感情の入ったUSBフラッシュメモリー、そんなものがあればオレはどんなに生産が少なくても、どんなに高くても手に入れてやる。そしてもちろんパソコン木下に取り付けてやる!


――そんな妄想の世界に入ってしまうほどオレは参っているようだ。
オレは体の芯まで温まるような風呂につかっている。
せっかく木下がいない空間、風呂場なんがら少しはリラックスしないとな。
なんか木下が来てからはそれ以前の会話や命令に匹敵するくらい話しているような気がする。

こんなに毎日、何をしないといけないかと考えたのは初めてじゃないだろうか。それも自分のことではなく他人のことを考えて。
そう考えてみると案外オレも木下のことは言えないのかもしれない。オレも結局は誰かに言われたことをしていただけだから。でも木下みたいに感情がない訳じゃない。ちゃんとした喜怒哀楽は持ち合わせている。

…………まぁ……他人の前では見せないが……。

「ふぅ」

オレは結局、風呂場の中でも木下のことを考えていて何の休憩、気休めにもならなかった。
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