幻が視る固定未来
あの構え……居合か。

そう、後退したと同時に作った構えは居合、その様は有希乃とは違った剣豪、いや武人のようにすら感じられる。
一重にこのままだとヤバいとオレの何かが警告する。だから一歩も動けなくなった。

相手は動かないんだぞ? なのにオレはすでにあいつの間合いの中にいる。一歩でも動けば竹刀が閃光のように襲ってくるな。

――けど、このまま動かなくって意味はない。勝ちに急ぐ訳でもない。ただこの状況は打破しないと劣勢続きはしょうに合わないぜ。

「無意味だ」
「な、」

まだ動いていない。
きっとオレの脳が一歩動けと命令を下し、それが左足に信号が到達した直前には、すでに居合のままの雪櫻が目の前にいた。

左足への信号をキャンセルしてももう遅い。雪櫻の反時計周りで描く円はオレの竹刀を吹き飛ばす。

そして手に痺れが残ってるまま、雪櫻の竹刀は叩きつけるかのようにオレの面を近づいてくる。

まだだ、竹刀がないから負けではない。柔道の時は背後を取られたから負けを認めた雪櫻。それはつまり無防備となったからこそ敗北を認めたということ。
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