幻が視る固定未来
事情を話してやるかと思った瞬間、木下がただ真っすぐに助歌を見据えて答えている。

「灼蜘が言った」
「そんなことは分かっています。みなにそうやって呼んでほしいと言っていたのですから。でもだからと言って全ての命令に忠実に従うだけでは幻視様のためにはなりません。そうやって呼んでいいのは奥様だけです」
「違う」
「何も違いません。どこが間違っているというのです」
「そう呼んでほしいと願われた。そう呼ぶことは灼蜘のためになる」
「確かにその通りかもしれない。けど上下関係をはっきりするという意味ではちゃんとした呼び方でないといけないのです」
「それは貴女の上下関係。私の最上位は灼蜘」
「それもそうかもしれません。けどこの屋敷の最上位は奥様です」
「意味のない説明」
「……くく」

耐えられなかった。
本当に声が漏れてしまうほど耐えれなくオレは両手で腹を抱えていた。
助歌は肩に置いた手を放して驚きの表情でいるが、やっぱり木下の表情は何も変わらないか。
ずっと聞いていたが、どうやらこの会話にオレが説明に入る必要性はない。どうあっても木下の意見は変わらないだろう。
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