幻が視る固定未来
それでもオレの言葉が届いたのか分からないけど、急に大人しくなり、真っ赤に染めた顔をこっちに向け、いつもの無表情でオレを見る。

さっきまであんなに苦しそうにしてたろ? 我慢してるのばればれだって。

この現実から逃げようと足は後退していたが、有希乃の我慢がオレの足を前進させ、駆け寄る。

雨が降った訳でもないのに水たまりを踏んだような音。それを聞くたびに心が折れそうになる。
首しか動かさない有希乃だったがオレが来るのに合わせて、ゆっくりと立とうとする。

「有希乃、無茶するな!」

きっとオレの言葉に従った訳じゃない。
立つこともできずに左手だけで体を支え、やっと状態で座っている。

「有希乃、ここで何があった」
「ふ、ふうふぅ」

呼吸しか聞こえない。
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