幻が視る固定未来
オレはまだ冷静をぎりぎり保っている。それは有希乃にはまだ回復の能力があるから。
だからオレは有希乃のこんな悲惨な状態を目にしてもまだ安心してられる。

有希乃は神素さえあれば……神素さえ…………あれば?
有希乃から真素を感じられない。

「有希乃! お前、神素は?」

ゆっくりながら首を横に振る。

なんだよその振り。違うだろ?
もっと別の意味で振ったんだろ?
神素がないっていう意味じゃないだろ。

「あるよな、回復できるくらい残ってるんだよな?」

また首を横に振る有希乃。

「近くに病院、どこかに行かないと、救急車呼ぶにも……ここどこだよ!」
 
最低限、有希乃が自力で回復できない以上、ここに留まるのは命に関わる。

「そうか、先に母さんに連絡して救急車を呼んでもらうしかない」

オレは急いで携帯を取る出すが有希乃のその手を止め、そして力が抜けたようによしかかってくる。

「有希乃、駄目だ。助かるには早く救急車呼ばないと」
「……助……ない」

微かに聞こえてくる声。
それは微かすぎてきっと聞き違いだろう。
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