幻が視る固定未来
「やはりそうですか。木下有希乃に関わることだとは思っていました」
「な、なんで?」
「だって灼蜘、必至な時にも瞳はあの人のように輝いていたから。あれは信じるものの眼だと私は思っています」
「そっか、父さんも同じだったんだ」

母さんはちょっと嬉しそうに頷く。

「でも母さんは有希乃の具現化、反対しないの?」
「なんとなくでも分かっていたことです。だからいつも無理はしないでと言っておきました。それが抑止になっているかは分かりませんが」
「なっていたとは思う。けど無理はした。それが真実かな」

「無理をするのも実は分かっていました。でも言うことしか出来ないのは昔から変わりません」
「そっか、オレは出来ると思う?」
「それは灼蜘の努力次第ですが、それは神以上のことです。希望を持つのはいいですが、自分で限界を感じたなら諦めてください……と今は言っても無駄ですね。これを」

母さんは引き出しから一本のカギを取り出し渡してくれた。

「私の個人部屋の向かいにある部屋の鍵です。そこにあの人が行ってきた全ての研究資料があります」
「ありがとう母さん!」

オレは積もる感謝の言葉を最もシンプルなことで言った。
その意味を母さんも分かったのか、嬉しそうに頷き背を向けた。つまりは行けということ。

そうしてオレは全速力で走りだした。
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