幻が視る固定未来


声が聞こえた。


よく状況が分からないけどそれが有希乃の声であることだけは分かる。

どうやらまた、オレは意識の世界に行ってしまったようだ。抵抗する気力はない。

初めてだったのは揺さぶられるような感覚。有希乃が起こそうとしているのだろうか。
けど心配するな、オレは有希乃を具現化するまでくたばらないぜ。

「灼蜘」

オレの言っていることが分からないのか。それとも信用できないのか、有希乃がしつこく呼びかける。
分かっているなら答えてやらないとな。けど揺さぶられているはずの体はない。感覚があるだけ。ついでに言うなら全くの闇の中で声が聞こえるだけ。

ここにはオレが存在していない。感覚だけでオレが白紙の上に落ちた墨のように不自然に目立っているように感じる。

声が出ない。

これが一番厳しい。
ここは以前とは別な場所だとでも言うのか。せっかくムリして来たのに意味ねぇな。
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