幻が視る固定未来
「久しぶりだね。ちょっとやつれたかな? 大丈夫?」

そう、目の前にいるのは間違いなく奈々だった。

どうしているのか分からない。というかどうやって入ってきた? まさか侵入してきたのか。
いやそれはありえない。あの一件から警備は強化されている。そんな警備を普通の一般人が入れる訳がない。
それだと考えられるのが誰かが入れたということ。つまりは助歌が勝手に入れたということだろう。
何考えてやがる?

「幻視様、彼女は木下のことを知っていました。幻視様が話さなければ木下のことは知ることはない。話すほどの信頼を持っていると思い入れました」

奈々の後ろから現れた助歌。やはりこいつが入れたか。

有希乃のことを知っていた?
それだけで入れたというのか。今のオレにその名前がどれほど重大だか分かっているはずだ。

逆に何も知らない奈々には全く意味も分からずに言ったんだろうな、有希乃の名を。

「帰れ、今のオレは誰かに会う気はない」
「また悩んでるんだね。前の時と同じ顔だよ」

あぁそうだな、そうかもしれない。前にも有希乃がいなくなったあの時は同じように苦しんでた。けど今は違う。苦しんでなんかない、ゆる気で満ちている。そこに絶望の地の底は見えていない。
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