幻が視る固定未来
「うん。でも私は何もしてないよ。ただ普通なことを言っただけ」
「それでもそれに救われたのは変わらない。もちろん送って行くぜ」
「玄関まででいいよ」
「そうか」

当たり前なことを言っただけ……か、確かにそうなのかもしれない。
けどオレにはそれがなかった。何故ならあの時にようとしていたことは当たり前なことじゃなかったから。

普通じゃないことをやろうとしていたから、オレはこの世の常識など無意味だと決めつけていた。だから父さんの残した書物だけを読み漁った。
それに頼るしかなかったのは間違いない。

オレのやろうとしていたことに必要な知識は確かにあった。けどそれだけでは駄目だった。
一人で何かを考え込んでもそこにある答えは一つしかない。どうあってもそうした目標は変わらない。
他者がいることで別な答えがあり解釈がある。答えまでの過程が違う。

オレは答えしか見えていなかった。足りないものが多かった。それを奈々は教えてくれた。本当に感謝している。

「ここまででいいよ、ありがと」

オレと有希乃は玄関まで奈々を送った。けど有希乃も靴を履いている。どうやら外に出たいらしい。だからオレも何も聞かずに靴をはいた。
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