幻が視る固定未来

「えと、誰ですか」

クラスメイトと話す木下か。そんなおかしな会話は夢じゃないと消えないな。

「……幻視灼蜘」
「あぁ幻視君ですか。だったらあそこで寝てますよ」
「了解」

なんというリアルな夢だろうか。しかも他のクラスメイトのざわめきまで聞こえる。

「あれ誰だよ」
「幻視に会いに来たってまさか女？」
「まさか金持ちだからメイドかなんかじゃないか」
「メイドだったらメイド服が基本だろ」
「若い過ぎない？　タメか下だよ」

「あーだこーだ……」

あぁうるせぇな！　こんな夢なら覚めちまった方がいい。
そうしてオレが机から上半身を起き上らせると一気にクラスメイトの視線が集中したのを感じる。
なんだなんだ、そんなにオレが起きたのが珍しいかよ。

「灼蜘」
「あ……？」

オレは不意に聞こえた幻聴に、まだ夢の中だと勘違いしながらも声の方向を見ると、そこには朝玄関で別れた時のままの姿で立っている……。

「き、木下？　なんでここにいるんだよ。ここは学校だぞ」
「これ」

オレの驚いているのになんの反応もなく差し出したのは一本の傘。朝持って行くのを忘れたオレの傘だ。

「まさか傘を届けるために来たのか？　よく助歌が許可を出したな」
「言ってない」
「まさか黙ってきたのか」
「必要ないから」
「ははは、まさか雨が降ってもないし、降るかも分からない状況なのに傘を持ってくるとは、それほど自分の天気予報に自信があるのかよ」
「なければ来ない」
　
それりゃそうだ、とオレは笑いながら答える。
周りのクラスメイトに関係なく木下と話していたが、嫌に静かだと思っていたら何か驚いているようだ。
そんなに召使い、メイドが珍しいのか？　私服だから別に珍しいとは思わないけどな。

「木下の傘はどうしたんだ？　玄関に置いて来たのか」
「……ない」

感情のない声で答えているがもし今降ってきたらどうするんだか。
多分まだ降らないと考えてるんだろう。本当に余程の自信だな。この前は一時間もズレてたのに。