幻が視る固定未来
安堵の一息をついてオレは中に入る。
そこにはやはり思った通り、木下が椅子に座りひっそりと本を読んでいる。
何故かカーテンが閉められているようだが、オレはそんなことよりも疑問に思うことがある。

そんな疑問を持っていることにも関わらず、木下はページを捲る手を止めてオレを見ている。
その仕草はまるで遅いと言っているような気がする。
まぁそんなことよりも木下は確かに本を読んでいた。電気を付けたはちょっと意外だったし、カーテンを閉めているのも意味不明。
だけど一番は木下の両耳から流れるイヤホンで、視線を下げるとペンダントのように白い新モデルのiPodを首に提げている。
まさか音楽を聞ききながら本を読んで待ってるとは思わなかったな。それにしてもいつの間に持ってきたんだか。
オレも同じ型の物を持ってるし、結構持ってる人も多いから不思議ではないのだが……なんか木下が使っていると妙な雰囲気だ。
いやいやそんなことよりも学校で堂々と使うなよ。先生に見つかったら面倒だろうが。けど生徒じゃないから関係ないか。

「……御帰り」

どうやらオレは気が付かない内に木下の傍まで来ていたようだ。本当に今日はぼぉっとし過ぎだな。

「大人しく本、読んでたのか」
「出てない」

聞かなくても木下が図書室を出てないのは分かっている。

「そうか、でもそのiPodはいつの間に持ってきたんだ? というか何を聞いてるのかかなり興味あるんだが」

オレが木下のiPodを指さしながら言うと、木下はイヤホンを取り首から下げているiPodごとオレに渡してきた。
恐らく、勝手に調べていいということだろうがちょっと見にくい。だがオレは好奇心を抑えられずに冒険気分でiPodの本体をいじり中の情報を探る。もちろん曲だけだ。他の所は見ないようにする。
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