幻が視る固定未来
そうしてオレが客間についた時、最初に母上に挨拶をして、左右で乱すことのない五メートルほどの直線を作る召使い達に目もくれずオレは前に進んでいく。

確かに母上の隣には見たことのない私服の女が一人立っているのだが……明らかに遠目からでも年下に見えるのは勉強のし過ぎだろうか。
だが、それは錯覚でも幻覚でもない。目の前まで来て、オレの召使いが自分よりも年下の女であることを確信する。

一瞬人形が置いてあると思えるほど静かな面持ちで、風景のように母上の隣に立っている。オレよりも首一つ以上背が低い。
普通とは違い風を具現したかのように流れる花緑青のショートヘアーと、そんな風のような髪に広がる大空のような華奢な瞳により一層人形に見えてしまう。

ただ、これから従うはずのオレが目の前に来ているのに目を合わそうとも、表情の一つも変えないのはある種の不気味を感じる。

こいつ本当に生きているのだろうか?

そんな疑問を振り払うかのように母上は新しいオレの召使いの紹介を始める。

「灼蜘、この娘が今日からあなたの召使いとなる木下有希乃(きのした ゆきの)です。この娘は色々と世話をした私の友人の娘でもあります。そんな恩をどうしても返したいとこの木下有希乃があなたのために召使いとして働きます。いいですね?」
「問題ありません」

オレは反射的にそんな言葉を返している。もちろん問題こそない。ちゃんと理由も聞けたことだし簡潔ながらも理解出来るから。
――ただこの急さには納得いっていないことは本人に聞くことにしておこう。
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