幻が視る固定未来
「ここではよく集中しているようですね」
「ああ」
簡単な返事を返しているが、その際でもオレは弓を構えている。
訓練には常に助歌がいる。それはいつも当たり前のこと。
ゆっくりと、ゆっくりと弓を構えている中、オレの意識は完全に的のにを捕えている。そこに雑念は一切存在しない。
助歌の声も存在も意識から消し去って、いざ弓を解き放つ刹那、たった唯一の時にオレは父のことを考える。それが一番、集中出来るから。
見えない父の姿を想像して解き放つ時が一番的を射抜く確率が高い。
――けど、今日に限ってオレは別な人を想像してしまった。
「あ……」
取り返しがつかない。
そう解き放ってしまった矢は的とは大きく離れて壁に突き刺さる。
ここまで大きく的をずらしたのは初心の時ぐらいだろう。いや初心の時でももっとマシだったか?
「今一瞬だけ、集中力が乱れました。何を考えたのですか」
「……」
あーあ、またやってしまった。これだと幻視の能力と同じだ。
とりあえず助歌には何も言えなかったが、オレは父の姿ではなくあの刹那に有希乃のことが頭に浮かんでしまった。
なんでかは分からない。けど刹那に浮かんだのは父よりも先に有希乃だった。
冷たい助歌の視線がキツイ。これはきっと二度、同じ失敗をすれば一切の訓練の手助けはしてくれないだろう。
……別にいいけど。
でも母上の言うことだからそれはマズイ。
――でも結局、二回目は見事に成功して助歌の機嫌も少しはよくなっただろう。
そうしてその後は一切有希乃のことは考えないようにして矢を放っていった。よくそんな状態で的に当てられたと自分を本気で褒めたい。
「ああ」
簡単な返事を返しているが、その際でもオレは弓を構えている。
訓練には常に助歌がいる。それはいつも当たり前のこと。
ゆっくりと、ゆっくりと弓を構えている中、オレの意識は完全に的のにを捕えている。そこに雑念は一切存在しない。
助歌の声も存在も意識から消し去って、いざ弓を解き放つ刹那、たった唯一の時にオレは父のことを考える。それが一番、集中出来るから。
見えない父の姿を想像して解き放つ時が一番的を射抜く確率が高い。
――けど、今日に限ってオレは別な人を想像してしまった。
「あ……」
取り返しがつかない。
そう解き放ってしまった矢は的とは大きく離れて壁に突き刺さる。
ここまで大きく的をずらしたのは初心の時ぐらいだろう。いや初心の時でももっとマシだったか?
「今一瞬だけ、集中力が乱れました。何を考えたのですか」
「……」
あーあ、またやってしまった。これだと幻視の能力と同じだ。
とりあえず助歌には何も言えなかったが、オレは父の姿ではなくあの刹那に有希乃のことが頭に浮かんでしまった。
なんでかは分からない。けど刹那に浮かんだのは父よりも先に有希乃だった。
冷たい助歌の視線がキツイ。これはきっと二度、同じ失敗をすれば一切の訓練の手助けはしてくれないだろう。
……別にいいけど。
でも母上の言うことだからそれはマズイ。
――でも結局、二回目は見事に成功して助歌の機嫌も少しはよくなっただろう。
そうしてその後は一切有希乃のことは考えないようにして矢を放っていった。よくそんな状態で的に当てられたと自分を本気で褒めたい。