幻が視る固定未来
「それではあなたからも少し自己紹介しなさい」

木下有希乃は母上の言葉にただ機械のように頷いている。
一歩前に出る仕草でも機械に見えてしまうのは未だに表情の一つ変わらないからだろうな。



「――あなたに従います」



「………………？」

真っ直ぐな瞳がオレを見ている。だがそんなことよりも自己紹介とも言えないこの一言は一体なんなのだろうか？
オレにどうやって反応しろと言うのだろうか？
あぁ、それともまだ言うことがあるが特有の間をもって話すタイプなのかもしれない。

だがそんなオレの考えも虚しく、木下有希乃は元いた位置まで一歩後退する。

――は？
今のが本当に自己紹介？
本当にそれでいいのだろうか。

ふざけているとも分からない無表情は未だに機械の如きピクリともしない。
母上は木下有希乃の性格を知っているのか、今の自己紹介をなんとも思っていないようだった。

「この娘は口数も少なく表情もあまり外には出さないけど優秀なのは確かです。存分に使うといいでしょう」
「……分かりました母上」

ちょうどオレが一礼すると召使いの列から一際目立つロングヘアーの召使いが母上の隣に立つ。
この召使いが長の助歌である。

「それでは助歌、あなたは木下にこの屋敷と簡単な灼蜘のスケジュールを教えてあげなさい」
「分かりました奥様。この助歌が幻視様に相応しい召使いになるように致します」
「いえ、簡単な説明で十分でしょう。後は木下が自分でやらなければならないことを見つけます」
「は、了解いたしました」

張り切る助歌の訓練なしでもいいということはそれほど木下有希乃は母上に信頼されているようだな。まぁそれくらいじゃないとオレの直属の召使いにするはずはないか。
ただ自分のことを話しているというのに木下は瞬き以外の行動を起こしてはいない。本当に機械みたいな奴だな。
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