幻が視る固定未来
月の光が大地を照らし続ける夜。

畳の匂いが仄かに香る道場風の部屋。

主張の少ない明りだけの部屋で、佇む二つの影は外夜の明かりにより照らされている。

――しかし、この影は人影だけではあらず。その両の手から突き出されている影は竹刀。

それだけではなく二つの影は激しいまでに伸縮、交差、点滅している。

轟いたのは竹刀同士の共鳴音にして衝突音。乾いた竹とはこうもはっきりとした澄んだ音を響かせるようだ。

竹刀同士のぶつかりはまるで握手のように交差して、その度に轟く音色にオレは心を奪われ、集中力が失われた。

――その刹那に、自分の手にはない相手が持つ竹刀はオレの腕から竹刀を叩き落とした……。
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