幻が視る固定未来
「それが負けた言い訳?」
「……い、いやそうじゃない。ただ、ただちょっとだけ集中力を失った理由を美化しただけだ」

いや、それを言い訳と言うわけだが。
あれくらい言っておけば分かる人には分かってもらえたんじゃないだろうか? このオレが剣道において負けてしまった理由を……。

そういえば状況の説明が遅れた。
今、オレは剣道の特訓をしている。相手は口調から助歌ではなく有希乃だと分かるだろう。

問題はどうしてオレが有希乃と剣道をしているか。
それは、オレが幻視の特訓ではない体術の方なら隠す必要ないと思い、たった一度だけ見学させようと思ったからだ。
ならなんで見学のはずの有希乃が竹刀を持っていたか。
それは有希乃が急に『私が灼蜘と一試合したい』なんて助歌に言い始めたからだ。助歌は有希乃の履歴を知っているのか、あっさり承諾した。

ちなみに今、助歌はオレと同じくらい驚きの表情で部屋の片隅で立ち尽くしている。
まさかここまで有希乃が剣道を強いとは思っていなかったのだろう。けどそれはオレも同じこと。
いくら経験があろうともオレはそこらで剣道している奴よりは強いつもりでいた。井の中の何とやらとは正にこのこと。
オレは有希乃が竹刀を持った瞬間から一切の手加減は不要……むしろ本気で戦わないといけないと決意していた。防具も付けていないのにだ。
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