幻が視る固定未来
……そんなこと、
「絶対にさせない! 母上でも有希乃は解雇させない。有希乃はオレの直属の召使いだ。他の人に有希乃を解雇させる権利はない!」

憩いだった。母上が相手だというのにオレは言いきってしまった。それも今までとは違った反抗的な態度で。

オレの反論に母上は驚きながら、完全に放心している。言いきったオレも多分放心しているだろうけど。
重い沈黙の中、オレはとんでもないことを言ってしまったと今更になって後悔する。
けど、そんな重い沈黙を切り開いたのは掠れるようなオレの一言。

「有希乃はオレにとって必要、です」

冷静に戻ったせいで敬語が戻る。
震えている声で何を言っても迫力はない。しかも完全にオレは逃げ腰だ。
ダサイなオレ。けど今のオレだとこれが精一杯らしい。声も枯れてもう何も言えない。
オレは恐る恐る母上の様子を伺う。そこには無言でオレを睨む母の双眼が光っている。

「そんなことを言われたのは初めてですね。けど、それは良いことではない……だけど私は嬉しいです。素直な感情に触れれて」

母上は意外にも優しくオレに言う。その雰囲気は今までと全然違う。

「――だけどここでの立ち位置では私の方が上です。それを見間違わないことです」
「はい……」
「けど、木下については全て灼蜘に任せます。だから私の言ったことは素直に受けなさい。とりあえず今は助歌の元で訓練しなさい」
「分かりました」

改めて実感する。この家では母上が一番の権力を持っていると。オレでは太刀打ちできないということを。
だけど母上は有希乃についてオレに任せてくれた。なら多分、解雇はされない。
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