らしくないけど

「なあ……」

何も答えないし、顔も上げない高野が何考えてんのか分からなくて、無意識に体が動いた。

細い手首を掴むと、驚いたように体をビクリと震わせた高野はゆっくりと顔を上げる。


「え……」

「あたし別に、嫌だったわけじゃない…」

「待って、何で?」

酔っ払ってるからってのもあるのかもしれないけど、ようやく見えた高野の顔は真っ赤で、涙目だし何かよく分からないけど、見たことない顔だってことだけは認識。

いやいやいや、これはもう好きな男に見せる顔じゃないの。普通は。

何なのマジで。


「え、何これ俺どうしたらいいの」

「加地くんが…っ」

「俺が、何?」

なるべく優しく、高野が話しやすいように聞くと、その視線を上げてキュッと唇を噛んだ。

< 116 / 143 >

この作品をシェア

pagetop