らしくないけど
「…高野」
「ん?何?」
もうすぐお酒の瓶が一本開くくらいにはお互い飲んでて、少なからず俺も高野も酔ってはいるんだろう。
「浴衣着てきて」
ふと浮かんだのはあのボルドーのワンピースを着て山田とフレンチレストランに行った高野の姿で。
俺が似合うと思ったブルーはまだとってあるにせよ、特別な姿を山田は見てて。それは確かに山田のためだったから。
それを今さらどうこう言っても仕方ないのは分かってるから、それなら俺は別の形で高野が俺のためにする特別な姿を見られればいい。
「浴衣?あたし持ってないって言った…」
「んなもん借りればいいだろ」
「誰が貸してくれるのよ」
だってきっとお前、どんな浴衣着たって似合うよ。
「俺のために着て」
自分で自覚できるくらいワガママで、どうしようもなくらい自分勝手だ。
ポケットで鳴る携帯。取り出せば【篠原蓮】なんて久しぶりに見た名前が表示されていて、高野がどうぞ、とジェスチャーをするから電話に出た。
誰か浴衣貸してくんねーかな。なんて考えながら。