らしくないけど

この人ごみの中だからもしかして見逃したか。なんて思ったけど、ここを指定したのは高野の方だ。

本人が迷子なんてことはない、はず。

そこまでバカじゃねーよなさすがに。


「加地くん…!」

下駄の音が微かに聞こえてきて、それと一緒に高野の声も聞こえた。

あー、やっと来たか。

なんて思いながら辺りを見回すけど、人ごみの中で高野の姿をなかなか見つけられない。決して小さいわけじゃないのに。


「加地くん!」

「あ…」

声が聞こえてきた方向に、見覚えのある浴衣が見えた。

……いた。

「ごめんね遅くなって!着るのに時間かかっちゃって…」

…あー、もう。

何だよ、ちょっと心配したんだけど。


「…加地くん?」

……俺結構重症かもしれない。

< 83 / 143 >

この作品をシェア

pagetop