恋の罠にはまりました~俺様部長と社内恋愛!?~


「力が抜ける……」


靴擦れに絆創膏を貼り、いつものぺたんこシューズを履いて、スタジオの外に出た。

まだ少し冷たい春の風の中、頬に張り付く髪をよける。


「お疲れ」


声をかけられて振り向くと、そこには日下部長が。手には車のキーを持っている。


「部長……」

「何をしてる。行くぞ」


日下部長は私を手招きする。まるで、猫にするみたいに。

私が来るのを確認しないまま、彼は背を向けて歩き出す。


「部長」


遠くに行かないで。

そう念じると、彼は少しだけ振り向いた。


「ん?」

「魔法が、解けちゃいました……」


ほっとしたのか、気が抜けたのか。

日下部長の顔を見た途端、涙腺が緩んだ。

魔法が解けて、私は元の地味な私に戻ってしまった。

すると途端に心細くなって、胸が締め付けられる。

もしかして、全部が夢だったのかと思える。

部長と寝てしまったあの夜から、営業部に移動したことも、笑顔が好きだとか、綺麗だとか、褒められたことも全部、全部。


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