真実はメイドだけが知っている。
普通の住宅地にある僕の家は、2階建てだ。
一般的な家庭からすると、多少広い家だと思う。

「妹と僕の部屋は2階にあります」

「ご両親は?」

「共働きで、ほとんど家を空けてます。
あの日も、家には僕と妹の二人だけでした」

「ほぅ」

説明しながら、階段をあがる。
突然で驚いたけど、榠土さんなりの人探しの手順というやつらしい。
それにしても、外出するときも白衣なのか…

「ここか」

「はい」

階段を上がると、ふたつの部屋がある。
手前は、僕の部屋。
奥は、まゆの部屋だ。

僕は、ゆっくりとまゆの部屋を開けた。

「ふむ」

僕と榠土さんは、まゆの部屋に踏み込んだ。

何も変わったところは、ないようにみえる。
持ち主の居なくなった部屋は、あの日から時を止めていた。
あるいは、持ち主の帰りをひたすら待ちわびているのかもしれない。

「…どうしました?」

僕は、固まったまま眉をひそめる榠土さんが気になって尋ねた。

「こういう場所は、不得手だ」

「え?」

「僕は、こういう女の子らしい可愛いものが苦手なんだ」

「そ、そうなんですか」

確かにまゆの部屋は、ピンクで統一されていてぬいぐるみが多い。中学生の女の子らしい部屋だ。

「なるほど」

腕組みを納得したように頷く榠土さん。

「念のために聞いておくが、彼女がいなくなった日からこの部屋のものには何ひとつ触れていないんだな?」

「はい」

「君は何か気づかないか?」

「えっと?」

僕は、もう一度部屋の中を見回した。
特に変わった様子はない。

「無くなっているものは?」

しびれを切らしたように榠土さんは言った。

「スマホと、財布と、リュックが見当たらないです」

「服は?」

「あの日着ていた服以外は、何もなくなっていないと思います」

それ以外にも、榠土さんは僕にいくつか質問した。
僕は、答えられる範囲内で出来るだけ正確に答えた。



「そもそも、どうしてその日兄妹喧嘩したんだい?」

「…友達に妹を紹介してほしいと頼まれていて、あの日は妹にそのことを伝えました。そしたら、妹は怒って家を飛び出していってしまったんです」

「ふむ。君の友達は、妹さんに好意を抱いていたということかい?」

「はい。妹は中学生にしては大人びていて
性格も良かったので、女子にも男子にもとても人気がありました」

そう。まゆは、可愛かった。兄として贔屓目に見ているわけでもなく、単にまゆは人並み以上に可愛く、そしてとても人望が厚かった。
…僕とは、まるで正反対だ。

「君は、何で妹さんが怒ったのか理解しているのか?」

「ずっと考えているんですけど、それがまったく分からないんです」

「…それだ」

「???」

「妹さんが怒った原因は、それだよ」

榠土さんは、苦笑して言った。

僕はやっぱり冥土さんの言わんとしていることの意味はわからなかったが、榠土さんにさっさと話題を変えられてしまった。

「ところで、君は本当に妹さんが家出したと思うかい?」

「思いません」

「なぜだ?」

はっきりと断言する僕を、おもしろそうに見る榠土さん。

「はっきりとした根拠はありません。
ただ、まゆは、僕の妹は、なんの連絡もなしに1ヶ月も帰ってこないような子じゃありません。きっと、何かの事件に巻き込まれたんだと思います」

僕は、ずっと思っていたことを率直に言った。
僕の真意を見定めるように、榠土さんはじっと僕も見ていた。



「探偵助手としては、失格だね」



ふっと笑うと、榠土さんは言った。



「だが、一人の兄としては合格だ。
妹を信じる心、妹を探すために探偵を雇う行動力、深い兄妹愛。ご立派な兄貴だな」

どきっとした。
見透かされてる。
僕は、直感した。
探偵の前では、どんな秘密もどんな真実も意味をなさないのかもしれない。

「…知ってたんですか?」

「探偵の基本だよ。下調べはね」

不敵に笑う榠土さん。

「君と妹さんが、ほんとうの兄妹じゃないことくらい、すぐに分かるさ」









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