わたしの隣の間宮くん
「まだ居ったんや」
濡れた瞼をぐいっと拭って
そろそろ帰ろうかと準備をし始めたとき
後ろから低くて不器用な声が聞こえてきた。
「 …そっちこそ 」
振り返らなくても分かるその冷たい声の持ち主に
なんとなく顔を見られたくなくて相手の方も見ずに教科書をカバンに詰め込んだ。
「ケータイ、忘れたから」
声をかけておきながら別に興味もなさそうに
ごそごそと自分の机の中を漁りだした彼の名は間宮大都[ マミヤ ヒロト ]。
1年生の時から同じクラスで、席替えの度に
なぜか隣同士になることが多かった私達。
だけど、
あまり人と関わりを持とうとしない彼と仲良くなる、とか めっちゃ話す、とか
そんな感じになることはなく
単純に『ただのクラスメート』な関係である。
「じゃあ、またね」
帰る支度を済ませれば、ロッカーの中まで
探しものをしている彼の背中に
一応、声をかける。
思ってたよりも小さく出た声は
それでも教室によく響いて。
「 …おう。 」
やっぱり興味もなさそうな声で
探しものをしたまま一言だけ発した彼は
一瞬だけ手を止めて
「元気、出せよ」
と、教室を出かかった私に
小さく、でも慰めが入った優しい声でそう言った。