窓ぎわの晴太くん
里子は素直におはようと言えなかった。
そして、まるで何もなかったような顔をしている晴太が少しだけ許せなかった。
でも・・・
体は自然と晴太へ向かって歩いていく。
晴太の声が、笑顔が、優しさが里子をがんじがらめしていくのを身をもって感じていた。
里子は晴太の目の前に立った。
「晴太さん・・・あの・・・」
晴太はそんな里子の手を取り、近くにある男子更衣室に連れて行った。
男子更衣室といっても、このフロアでは広瀬と晴太しか使っていない。
中は広々として日当たりがとても良かった。
晴太は里子に言い訳をするつもりは毛頭なかったが、里子とゆっくり向き合える場所と時間がほしかった。
里子は青いバンダナで包まれたお弁当を晴太に渡した。
「ありがとう」
里子は頷くのが精一杯だった。
でも、涙は見せたくない。
重い女と思われたくはなかったし面倒くさい奴とも思われたくなかった。
「昨夜はごめん・・・
突然いなくなって・・・」
晴太の切ない声と言葉は里子の胸に響き渡る。
里子は首を横に振りながら流れ出る涙を抑えられなかった。