窓ぎわの晴太くん
里子は品川駅に着いた。
涼から教えてもらった待ち合わせの場所を、里子は漠然としか分かっていない。
まずは改札を出てエスカレーターで下に降りて、涼に聞いた目印の大きな看板目指して進めばいいだけだ。
里子は慎重になり過ぎて中々前へ進めなかった。
すれ違う男の人が全員晴太に見えてしまう。
涼さんが人の波に隠れて歩いておいでって言ってた・・・
その駅は平日だというのにたくさんの人が行き来している。
里子は大きな人の固まりを見つけてはそこに潜んで移動した。
最初は大きな人の群れも先へ進むたびに小さくなっていく。
すると、里子はまた大きな人の固まりを捜しそこに紛れた。
悲しいほどに真面目な里子は、涼の言いつけを完璧に守るあまり待ち合わせ場所からどんどん離れていた。
里子は涼からの電話に心臓が止まる思いがした。
「もしもし・・・」
「里子ちゃん、今、どこ?」
「今ですか? え~と・・・」
「看板は? どこら辺に見える?」
里子はすっかり看板の存在を忘れていた。
「あ、全然離れた所に来てしまったみたい・・・」
「え、マジ・・・
でも、看板は見える?」
「はい」
「里子ちゃん、猛ダッシュで走ってきて」