窓ぎわの晴太くん



涼は電車の中で里子の様子をジッと見ていた。


ほんの少し前に涼と里子が目撃した晴太は、涼が知っているそして里子が愛している晴太とは違う人間だった。
年老いた女性に何かを必死に説き伏せている二人の大きな男達。
明らかに違和感があり、まがまがしい空気を放っていた。

涼はすぐに里子の手を取り駅の方へ歩き出した。
里子のさっきまでの威勢の良さはシャボン玉が弾けたように跡形もなくなくなってしまっていたから。

そりゃそうだろう・・・
この俺だってショックを隠し切れないんだから。
俺がガキの頃から知っている晴太は優しい兄貴のような存在だった。

晴太?
一体何があったんだ?
俺が大好きだった兄貴のような晴太はもうここにはいないのか?


涼は電車で一言も話さない里子の手を握った。


「里子ちゃん、大丈夫?」


里子はやっと顔を上げて涼を見た。


「・・・大丈夫じゃないかもしれない・・・」



「そうだよな・・・」


里子は電車の窓の方を見て長いため息をついた。


「でもね・・・
心の半分はやっぱり晴太さんを信じているの。

さっきのおばあさんとのやり取りも何かちゃんとした理由があるのかもしれないって。

私達が見た光景は衝撃的だったけど、でも、まだ、それだけで私は晴太さんを判断したくない」









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