窓ぎわの晴太くん
里子は結局、一睡もできなかった。
そして、朝日が昇るのを待って散歩に出た。
お気に入りの音楽を聴きながら歩くことは心に安息をもたらしてくれる。
里子は晴太を昨夜見た事は黙っておくことにした。
その前に晴太の今を聞きたい。
今、晴太が何を考え何を求め何を目指しているのかを。
今日も夕飯に招待しよう。
お腹を満たす事は心も満たすはずだから。
晴太がもし大きな悲しみを抱えているのなら私の手料理で癒してあげよう。
そして、晴太に聞きたい。
“晴太さんの今を教えて下さい”
里子はいつもより早くに会社に着いた。
誰もいないオペレーター室で、里子はパソコンが載っている個々に仕切られているデスクを一つ一つ乾いた布で拭き始めた。
すると、派遣の人達が次々と出社しては里子に「おはよう」と言ってくれる。
その些細な挨拶が里子の荒れ果てた心を癒してくれた。
私はこうやって皆に支えてもらいながら生きている。
里子はいつもの笑顔で皆に挨拶をした。
私は大丈夫。
晴太と顔を合わせても普通でいられる、きっと。
里子、頑張れ。
でも、晴太は会社に来なかった。
広瀬係長から今日は休みだと言われた。
里子はまた奈落の底に落ちていった。