窓ぎわの晴太くん



里子は女子トイレで涙を抑える努力をしていた。

後、半日、泣かずに乗り切らなきゃならない。
仕事に私情を持ち込むべからず。
そう唱えながら鏡に映る自分を見る。

もう、まつ毛のエクステほとんど取れちゃった。
夏子さんのお店に行かなくちゃ・・・

夏子さん、私を助けて・・・



里子はどうにか午後の仕事を済ませ、帰る派遣さんのシフト表のチェックをしていた。


「ののちゃん、元気がないわね」


西川が座っている里子の肩をもみほぐしながらそう話しかけてきた。
里子が何も言わずにいると、西川は里子の耳元でこうささやいた。


「明日は会えるんだから・・・
元気を出してね。

スマイル、スマイル」



里子はもう晴太は会社には来ないんじゃないかと思っていた。
結局、里子は晴太の何も知らない。
連絡先も家の住所も・・・

もう歩く気力も元気もなかった。
早く家に帰って思いっきり泣きたい。

里子がマンションに着き部屋までの階段を上がろうとした時、誰かが自分を呼んだ気がした。
また外へ飛び出した里子は周りを目を凝らして見回す。

誰もいないと思ったその時、少し先にあるパーキングの自販機の前に人影が見えた。


「晴太・・さん?」


里子はその自販機に向かって走った。
自販機のほのかな明かりに照らし出されているのは間違いなく晴太だ。


「は、晴太さん・・・」


里子は涙で前が見えない。

でも早く行かなきゃ、晴太さんがまたいなくなちゃう・・・


晴太はいつもの笑みを浮かべて、里子に歩み寄った。


里子とこうやって会うのはこれで最後と決めた。

今日でちゃんとさようならをするんだぞ・・・













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