窓ぎわの晴太くん
晴太は食卓の椅子に座って里子が手際よく働くのを見ていた。
この古びた1DKの小さなマンションも、今の晴太には唯一の癒しの場所となっている。
きっとここに里子が住んでいるからだろう・・・
晴太はもうこれ以上里子を騙すわけにはいかなかった。
里子の記憶に残る晴太を今のままで留めておきたい。
晴太は里子の通勤バッグの中に見覚えのあるバンダナを見つけた。
あ・・・
あのバンダナは、きっと俺のために作ったお弁当を包んでいるものだろう?
晴太は冷蔵庫の前に立っていた里子を後ろから強く抱きしめた。
「ののちゃん、もういいよ・・・
僕なんかのために料理なんて作らなくていい。
僕は今日はののちゃんにさよならを言いにここに来たんだ。
ごめん・・・
思わせぶりな態度ばかりとって・・・
もう僕の事は忘れて・・・
だからご飯もいらない。
ごめん・・・」
里子は振り返り晴太の首元にしがみついた。
「なんで・・・
私、晴太さんから何も聞いてない・・・
なんでさよならしなきゃならないのか、なんで私と晴太さんはつき合えないのか、何も分からないのに勝手に会わないなんて言わないで下さい・・・」
里子は涙を止めるために晴太の香りを胸いっぱい吸い込んだ。
今日の晴太は煙草の匂いがした。