窓ぎわの晴太くん




里子は10時まで駅の改札のベンチにずっと座っていた。
晴太の言葉を信じようと決めたのに心はすぐにくじけそうになる。

家に帰り着いた里子は、普通に過ごす事に専念した。
専念するところで普通ではないのだが・・・
シャワーを浴び、明日のお弁当の下ごしらえを終え、もうテレビさえ見たい番組がなくなってしまった。

時計は深夜の12時を指している。


もう、きっと晴太は来ない・・・
明日も明後日も仕事にも、もう晴太は来ない・・・

こうやって、私は晴太に捨てられるんだ・・・


里子はクッションに顔をあて声を殺して泣いた。
声をあげたらきっと朝まで泣いてしまうだろう。
泣くのは嫌い・・・
本当は泣きたくないのに、でも晴太に会えないと思うと体が粉々に壊れてしまう。
粉々に壊れた私はもう泣くことしかできなくなる・・・


晴太さん、お願い、私に会いにここに来て・・・




“ピンポン”


里子は飛び上がった。
壊れているはずのチャイムがこんな夜中に鳴るなんて・・・

里子は涙を拭き、ドアのスコープから外を覗いて見てみた。

誰もいない・・・

でも、耳をすませば、玄関のドアの下の方でカサカサと音がする。


晴太さん?


里子はチェーンをつけたままゆっくりとドアを開けてみた。


「晴太さん・・・」


そこには晴太が座っていた。
顔は腫れ口元は切れている。

里子はチェーンを外し外に飛び出した。







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