窓ぎわの晴太くん
「ごめんなさい・・・
痛かったですか?・・・」
里子は消毒液を塗っていた比較的大きな傷口にリズムよく優しく息を吹きかける。
「フ~、フ~、フ~」
里子はこんなに傷を負った人を見るのは初めてだった。
それもよりによってなんで晴太さんが・・・
里子は強烈に腹が立ってきた。
「フ~ッ、フ~ッ」
晴太は里子の様子が変わったことを感じていた。
晴太の腕を持つ手はわなわな震え、吹きかけてくれている息はとても優しいとは言えないほどの風圧だ。
「ののちゃん、ありがとう・・・
もう、いいよ」
晴太は口の中も切れてるせいか話す事もままならなかった。
里子に心配をさせたくないのだが、痛みには勝てず話すたびに顔をしかめてしまう。
その晴太の様子を里子はジッと見ていた。
晴太はその視線を避ける事ができず無理に笑って見せる。
「晴太さん、口を開けて下さい」
晴太が笑顔で首を横に振ると、里子は歯医者を怖がる子供を叱る母親のようなおっかない顔をして晴太を睨んだ。
「自分で開けないのなら私がこじ開けますよ」
晴太は降参した。
今の里子の形相は晴太を縛り付けてでも口をこじ開けそうな勢いだったから・・・