窓ぎわの晴太くん
里子は晴太の昔の彼女の話にかなり動揺した。
ここは大切なところじゃない、話の流れの一部でしょ?
心に余裕を持つのよ、里子・・・
「それで?」
動揺はしているが、でも先は聞きたい。
里子は複雑な笑みを浮かべてそう聞いた。
「僕を心配した祖母は、東京まで出てきて僕を捜し始めた。
前に住んでいた家は解約してたし、電話も家には全然してなかったから。
そしたらある日、祖母は会社にまで来たんだ。
僕を見て、“やっと見つけた”って泣いてたよ。
でも、その頃の僕はそんな祖母が鬱陶しくて、それから先も家に帰る事も電話をする事もなかった」
「なんで?」
「なんでだろうな・・・
若気の至りか、ただのかっこつけか・・・
その頃は大切なものが全く見えてなかった」
晴太はもう里子の指を抜き取る事はなかった。
でも、絡めている指に力が入る。
「で、あの事件が・・・
あいつらに祖母は全財産を盗み取られた。
僕になりすました奴が上手に祖母を操って一円たりとも残さずに全て奪い取ってしまったんだ」