窓ぎわの晴太くん



晴太は黙って運転していた。

このばあさんを家まで無事に送り届けてしばらくは見張るのが俺の仕事だ。
とにかく他のグループにこのばあさんはもう俺達が手を付けたと思わせなければならない。
そのためにはきつく当たるふりをする事もある。

でもこの美津子ばあさんはそんな俺を悲し気な目で見る。
あなたはそんな人間じゃないでしょうみたいな俺の心を見透かしているかのような目で。


「二枚目さん、その顔の傷はどうしたの?」


晴太はため息をついた。
仕事がら個人情報は教えられない。
名前も適当に呼んで下さいと言うと美津子は晴太の事を“二枚目さん”と呼ぶようになった。

里子の事や色々あり過ぎた晴太はこの夢見る美津子の相手をする元気は残っていなかった。


「金井さん・・・」



「美津子です」



「美津子さん・・・

僕が心も体も元気になったら教えますので。

ごめんなさい。
今は運転するのがやっとなんです」


美津子は後ろの座席から晴太の事をジッと見ていた。


家に着いたらちゃんと布団を敷いて寝かさなきゃだわ。
こんなボロボロの二枚目さん見るの初めてだもの・・・







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