窓ぎわの晴太くん
晴太は迷路のような廊下を抜けてやっとリビングを見つけ出した。
食事をご馳走になるわけにはいかない。
ただ美津子に休養させてもらったお礼を言うだけだ。
リビングのドアを開けた晴太は目がテンになった。
6人掛けの大理石のテーブルにびっしりのご馳走が所せましと並んでいる。
晴太は周りを見回した。
何度数えても晴太と美津子とお手伝いさんの3人しかいない。
「二枚目さん、お腹空いたでしょ?
ちょっと早いけど私達も一緒に夕飯をいただこうと思って」
お嬢様育ちの美津子はナプキンを膝の上にのせてにこやかにこちらを見ている。
「いや、食事は結構です・・・
相沢さんから何度も電話が入っててちょっと電話しなきゃヤバいので」
晴太は断る言い訳を必死に考えるが気の利いた理由が思いつかない。
「相沢さん?
相沢さんなら大丈夫よ。
私がさっき電話で話したから」
「え?
相沢さんはなんて?」
「ゆっくり休養しなさいって」
は?
そんな事相沢が言うはずがない。
「もしかして僕のケガの事も言いました?」
「はい、ちゃんと言いました。
何があったか知りませんが、重傷ですってね」
晴太は強烈な頭痛に見舞われた。
美津子のペースのクモの巣に俺はもうかかってしまったのかもしれない。