窓ぎわの晴太くん



里子はまだこの場所に留まっていたかった。
でも、お腹を空かした涼をほっとくわけにもいかない。


「分かった。
じゃ、つけ麺食べに行きましょうか」


里子は涼が空にこぶしを突き上げて喜んでいるのが可笑しかった。

可哀想だったかな・・・
こんなことなら先につけ麺食べればよかった・・・


涼のお薦めのつけ麺屋はそのホテルからすぐの所にあった。
食券販売機の前で涼がつけ麺を愛してやまない理由をさんざん聞かされた。


「俺はこのセットにするけど里子ちゃんは?」



「私? あ、私は・・・
う~ん・・・

あの、これっておそうめんみたいにこのお汁につけて食べるんですよね?」


涼はコントのように里子を二度見してしまった。

え? もしかしてつけ麺を食べてことがない?
そんな、まさか・・・
こんな美味しいものを・・・


「里子ちゃん・・・
つけ麺、初めて??」



「はい。
ラーメンなら食べた事はあるんですけど」


涼は嬉しかった。
里子の初めてのつけ麺の日に立ち会えるなんて・・・


「じゃ、俺のと一緒のを頼もう」


里子は晴太とは全く違う涼の優しさに感動していた。
涼がつけ麺をこんなに愛している事も知らなかったし、食欲も元気もない私に食べる前からつけ麺の素晴らしさを教えてくれるため、確かに無性に食べたくなってきた。


「里子ちゃんの初めてのつけ麺、動画に収めていい?」


いやいや、それは勘弁してください・・・







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