窓ぎわの晴太くん
美津子はこの若者の幸せそうな顔が見たかっただけだった。
彼にこの仕事を始めるきっかけになった話を聞いた時は胸がえぐれる思いがした。
彼は、大切な人を自分のせいで失ってしまったと言った。
自分の手で殺めたわけではない。
でも、自分の罪はそれと同等ですと・・・
大切な人を亡くした人は少なからず自分を責める。
そして、彼は後悔の中でまだ生きている。
彼の大好きなおばあさんは寿命でなくなったのだと教えてあげたい。
人間はこの世に生を受けた時にはもう寿命は決まっているのだという。
死ぬ時のその瞬間や出来事なんて関係ない。
その人がどう生きてきたか、幸せだったその人の素敵な時間を思い出してあげることが彼のするべきことなのに。
たくさんの人を見送ってきた美津子はそれだけの数の苦しみも悲しみも見てきた。
彼が詐欺を撲滅するなんてそんなことできるはずもない。
美津子はまだ何の知恵も浮かばなかった。
でも、今、彼は大好きだったおばあさんの思い出を呼び起こし穏やかな顔をしている。
こんなに大きな傷を心に負った人間に一つだけ効果のある薬を美津子は知っていた。
大切な人を亡くした人はそれ以上に大切な人に出会うこと。
この二枚目さんに愛する彼女はいないのかしら・・・
おばあさまを超えるほど彼の心を掴んで離さない女性がいてくれればいいのだけれど。