窓ぎわの晴太くん
「晴太さん、ほら、見て」
里子の指さす先の方で西川達の顔が見えた。
参道に並ぶたくさんの人達の中でひと際目立っている。
晴太は顔をしかめた。
西川のおばちゃん達は大きな手作りうちわを持っていた。
3つの黒地のうちわに蛍光色の色で“里子”、“晴太”、“LOVE”と書いてある。
金色のモールで縁取られたうちわはまるで韓流スターをお出迎えするファンの持ち物のようだった。
「ののちゃ~ん、晴太く~ん」
西川達は涙ぐんでいた。
その隣で広瀬係長も泣いている。
そして里子も鼻をすすっている。
晴太は深々と頭を下げた。
いろいろ心配をかけてごめんなさい。
そして、ありがとうございます・・・
神社の本殿が近づいてきた。
晴太と里子の後をたくさんの人が歩いてくるのが分かる。
晴太は恐る恐る振り返った。
すると、晴太の目に飛び込んできたのは母親が大切に胸に抱えている祖母の遺影だった。
母さん、ばあちゃんの写真を持って来てくれたんだ・・・
晴太は涙を堪えるのに必死だった。
里子は晴太の異変に気づいていた。
そっと優しく手を握る。
こんな青空の下でたくさんの人達に祝福されて俺と里子は結婚する。
俺はあんな形でばあちゃんを失ってしまったけれど、今、またばあちゃんと同じくらいに大切な人を見つけた。
今度は何があっても手離さない。
一生死ぬまで守り抜く。
晴太は遺影の祖母の顔を初めてまともに見れた。
祖母は笑っている・・・
晴太を見つめる優しい顔で・・・