窓ぎわの晴太くん
里子が店を出ると外は小雨が降っていた。
駅の裏通りのこの一帯は飲み屋が多いため、女の子が一人で歩いていると酔っ払った人がすぐに絡んでくる。
里子は小走りで下を向いて駅まで向かった。
なんだかとてもみじめで涙がこぼれてきた。
この可愛くなった自分の姿を晴太に見てもらいたかった・・・
ただ一言可愛いって言ってもらいたかった・・・
なんで?
晴太さん、どこに行っちゃたの?
晴太さんに会いたい・・・
小雨はいつの間にか本降りになっていた。
「ののちゃん?」
そこにはビニール傘を差した晴太が立っていた。
里子はそれでも晴太を追い越して前だけを見て歩いた。
雨に濡れていようが関係ない。
「ののちゃん、待って」
晴太はそう言うと里子の腕を引っ張り自分の傘の中に引き寄せた。
「遅くなってごめんな。
怒っちゃった?」
里子は晴太に掴まれている腕を振り払おうとしたが晴太はびくともしない。
「こんなに濡れて・・・」
土砂降りに変わってきた雨をよけながら、晴太は里子を連れて花屋の軒下に走り込んだ。