窓ぎわの晴太くん



里子と晴太は雨宿りも兼ねて近くの居酒屋に入った。
平日ということもあり、お店の中は人もまばらだった。
まだ里子の落ち込みは続いていたので、晴太は適当に食べ物を注文した。
お酒が苦手な里子のためにゆずソーダを、そして、またいつ呼び出されるか分からない自分にはウーロン茶を頼んだ。


「ののちゃん、とりあえず乾杯しよう」


晴太はそう言って、里子のゆずソーダに自分のウーロン茶をカチンとぶつけた。
そして、もう一度里子の事をじっくり見た。


「ののちゃん、髪はどうしたの?
結構、切っちゃったんだね」


里子はポーチから小さな手鏡を出し、自分の顔を覗いて見た。
あの時夏子に綺麗にセットしてもらった髪は、雨に濡れたせいで見るも無残な状態になっている。


「なんか・・・

夏子さんに切ってもらった時はすごく素敵で、本当はその時に晴太さんに見てもらいたかったんです。

今は雨に濡れちゃってこれじゃもうただのおかっぱですよね・・・

なんかすごく残念というか、でもきっとこんな風にあか抜けないのが私なんです」


晴太は自分を呪った。
なんでもう少し早くに戻れなかったのかと・・・
里子が傷つく姿を見ると、晴太の心の中がざわつく。
無性に抱きしめたくなる、そんな気分にさせられた。








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