窓ぎわの晴太くん
晴太はあのパーキングの前に立っていた。
ただ里子が無事に家に帰り着いているか確かめるだけのはずだったのに。
里子の部屋は明るかった。
きっと台所に立って大好きな料理でもしているのだろう。
晴太は自販機を支えているブロックの上に腰かけた。
これじゃ、立派なストーカーじゃないか・・・
晴太は自分自身の行動に呆れて大きくため息をついた。
昨日、里子の甘い香りを嗅いでしまった。
その香りは俺の衣服にも肌にも魂までも沁みついてしまったようだ。
缶コーヒーを飲み干したら帰るぞ。
そう思っていた晴太はバックの中でもみくちゃになっているある物を見つけてしまった。
“カチン、カチン・・・”
里子は自分のためと明日のお弁当のおかずの下ごしらえも兼ねて肉じゃがを作っていた。
鍋がぐつぐつする音とは別に何かの音がする。
“カチン、カチン・・・”
里子はその音のする方へ近づいてみた。
あ・・・
出窓のカーテン越しに晴太を見つけた。
晴太は里子に気づいてもらうために窓に向かって小石を投げている。
すぐに窓を開け晴太に向かって手を振った。
「ののちゃん、急にごめん・・・
これ、渡すの忘れてたから・・・」
晴太は空っぽのお弁当箱を手に持ち、それを振って見せた。