天狗の娘
「あまり遅くなるといけないわ。
お母さん、明日には病院に戻らなきゃいけないから……」
母親の言葉を聞いて、少女に憤怒の表情が湧き上がった。
「やだ!」
泣きそうな顔をして、大声を出す。
「お母さんこの前、一か月位お家に居られるって言ってたじゃん!
お爺ちゃんとお婆ちゃんのうちじゃなくて、もともとのお家に帰ろうって!
なのに、なんで……」
少女の言葉聞いた途端、母親の顔に沈痛の表情が浮かぶ。
「…………ごめんね、紗希」
「違うの! 謝るのはお母さんじゃないの!」
少女はぷいと顔を背けて、母親の手を引いた。
「早く元気になってよね! 約束!」
「ええ。……約束する」
母親の微笑は、どこか寂しげに見えた。