天狗の娘
「この鳥居はね、神様の世界に続く扉なの」
少女の母親は、おとぎ話をする様に話を続けている。
「……かみさま?」
「そう。だから、紗希が本当に一人になったら、この鳥居を潜りなさい。
そうしたら、きっとお父さんに会える」
「え、でも」
少女は口ごもった。
「だって、この鳥居の先は……」
渓谷なのだ。
鬱蒼と木々が茂る連峰が、夕闇に浮き彫りにされて鳥居の向こう側に見える。
断崖絶壁に存在する鳥居の先に、欄干は無い。
こんな所に足を踏み出したらどうなるかという事くらい、幼い紗希にだってわかる。
「大丈夫、ちゃんと道ができるの」
「…………」
母親は真面目な顔で大きく頷く。
「……わかった」
どこか腑に落ちない、といった様子で頷いた少女に、母親は満足げな表情を向けた。