恋愛公私混同症⑷
プロローグ
幼稚園のころの話。
それはたしか、年長組のとき。
「シンデレラ役は、波奈ちゃんです!」
私、木南波奈は
シンデレラの内容も、シンデレラすらもわからずに、シンデレラを演じてた。
その日から始まったいじめ。
シンデレラ役を私に取られたことが原因だった。
……高嶺安奈。父親が大企業の創始者で、その会社のCMにも出ていたっけ。
それが安奈のステータスだった。
安奈は唯一に敵視されていた。
そして10年後。意識の高い安奈と、何事にも無関心な私・波奈の明暗ははっきりと分かれていた。
カットモデル、のちに読者モデルにスカウトされた安奈は着実に芸能界への階段を登り現在は某有名雑誌の専属モデルをしている。
一方私は平凡な生活の中で数少ない友だちと楽しく過ごしている。
安奈とは偶然にも同じ高校、同じクラス、隣の席という間柄の私は、今日も空いた安奈の席を見つめる。
「安奈、今日も休みだね。
単位大丈夫なのかな?」
小学生のときから仲のいい友だち、小松ちひろ。
「……大丈夫じゃない?頭良いし」
「よく知ってるね。仲いいの?」
「まあ……一応小さいときから知ってるからね」
もうすぐ夏休み。
高1の夏が始まるっていうのに、私は何にも決まってない。
自分の好きなことも、やってみたいことも、目標も、進路も。
『自分の好きなことができるように、選択肢を広げておきなさい』
お母さんの言葉の通り、何も決まってないけどとりあえず勉強をがんばってる。
おかげで学年2位。
……1位は安奈。
正直、そんなこと私にとっては別にどうだっていいのだけど。
私は本当に何も決まってないけど、
ひそかに恋がしたいなって思ってる。
だって、高校生だし。
マンガみたいな、ドラマみたいな恋がしたい。
甘酸っぱい、切ない、キュンキュンする恋が。
「あ、波奈〜」
「結実先輩」
廊下に出て教科書を取り出すところで、結実先輩は私を見つけた。
部活の先輩、石田結実。
私は元々、女子バレー部のマネージャーとして所属してたけど、3年生が引退して、さらに1年生からも退部者が出たせいで今は選手をやっている。
よく『中学もバレー部だったの?』と聞かれるけど、中学のときは水泳部だった。
水泳は小学3年生にしてけのびもできない私を心配した両親が始めさせた、初めての習いごと。
水泳は自分に合っていたらしく、どんどん上達していって、なぜか本格的に水泳をするようになった。
私はクロールで25mを泳げたらやめようと思っていただけに、毎日通う水泳スクールは足が重かったのを覚えている。
水泳以外のスポーツは苦手だったから、中学の強制入部制にはだいぶ苦しめられ、しぶしぶ水泳部へ。
高校はあえて水泳部のない高校を選んだ。
親は結構反対したけど。
「今日の部活のことなんだけど、最初ミーティングするから2-4に集まってって、美貴にも伝えておいてくれる?」
「わかりました」
「じゃあよろしくね〜」
結実先輩は女子バレー部の部長。
おもしろくて、バレーが上手で、尊敬してる。
1年生の退部者……理加と同じ中学だったらしい。
理加、やめてほしくなかったな……。
折笠理加。この高校も部活は強制入部制で、中学の私と同じくしぶしぶ入部した。
部活帰り、理加はいつも辞めたいって言ってた。
だけど、理加は冗談半分で笑っていて、私も冗談半分でそうだねって返した。
そして1週間前、理加は突然
『私、部活辞めるね』
『ごめん』
私は、理加はまた冗談を言ってるんだって思ってた。
『冗談だよ』
そんなメッセージはどんなに待っても来なかった。
私泣いてたっけ。……そのくらい結構ショックだった。
突然のことに理由も聞けなかった。
高校で出会って、3ヶ月も経たないうちにふざけあえる仲になって、私は勝手に親友予備軍……的な、そんな感じになってると思ってたけど、理加は違ってた。
それにもショックで。
いっそ私も辞めてやろうかとも思ったけど、そうなると美貴が不憫でそうもいかなかった。
高校からバレーボールを始めたのもあって試行錯誤する日々だけど、部活が好きだし、やっぱり私に恋する時間はないと思う。