手に入れる女
#6
こっそり抜けたつもりだったが、ばれていたらしい。職場に戻るとすぐに沢田が走り寄って来た。
「部長、どこ行ってたんですか」
「いや、ちょっと休憩してきた。よし、もう少し頑張ろう」
「あれ、なんか声が明るくないですか、部長?」
佐藤はさりげなくケーキの箱を隠した。
「そう? 沢田も気分転換してくるといいよ、今晩も長丁場になりそうだから」
そういって佐藤はそそくさと業務に戻った。
指示を仰ぐメールがいくつも来ている。迅速で冷静な判断が求められる。沢田に指示を出しながら、メールに返信しながら関係部署に電話で問い合わせたり、しばらく仕事に没頭していた。
結局佐藤がその日に帰宅したのは始発電車であった。
帰り道、白々と夜が明け、カラスがあちこちでごみをあさっていた。最近の朝晩の冷え込みは身にこたえる。佐藤は背中をすぼめて急ぎ足で帰っていった。
家の戸を開けると静まり返っていた。家人はぐっすり寝ているらしく、物音一つしない。
リビングのドアを開ける音がいやに部屋に響いた。
ダイニングのテーブルをふと見ると、佐藤のご飯が用意され美智子のメモが添えられていた。
のりさん
ご苦労様です。私は先に寝るね(美容に悪いから)
起こして欲しい時間をメモしといて下さい。
ネクタイを緩めながら、メモにさっと目を走らせ二階にあがった。美智子の規則正しい寝息が聞こえてくる。
そこらへんに服を脱ぎ散らかしてパジャマに着替えるとベッドにもぐりこんだ。気配を感じたのか美智子が寝ぼけて佐藤にからみついてきた。
「のりさ〜ん。おつかれ〜」
それだけ言うと美智子はまた眠ってしまったようだった。
佐藤は美智子を抱きよせながら、ふうっとため息をはいた。